ナラタージュ
- 作者: 島本理生
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2008/02/01
- メディア: 文庫
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恋愛小説。ふんわりした感じ。こういうことが実際にありそうで、やっぱりでもないかもしれない。恋愛において、こういう純粋な雰囲気は現実にはやっぱりないかな。少なくとも、自分自身の高校〜大学生活にはまったくこういう要素はなかった。
印象にのこった部分。
しまいには、学校なんて一度ぐらい辞めたっていいんだよ、と言い出したのでこちらのほうがぎょっとした。僕も高校は中退したしね、と悪びれもせずに笑顔で彼は言った。
「工藤は自分自身を適当な人間だと思っているみたいだけど、本当は責任感が強くて完璧主義者だよ。そういう子はかならず最後まで大丈夫なふりをして思い詰めるけど、死んでしまうぐらい嫌なことなんて簡単にほうり出してしまってかまわないんだ。君よりも苦労してがんばっている人がいるんだから君もがんばれ、なんて言葉は無意味で、個人の状況を踏まえずに相対化した幸福にはなんの意味もない。誰だって本当は自分の好きなことや明確な人生の目標に対してしか苦しんだり努力したりはできないものなんだから。君が本当に今の場所から離れたいと思ったとき、君はそれを逃げているとは思わないよ」
担任からはあと少しだからもっとがんばれ、せめて理由を説明しろと言われる日々に疲れていた。そんなときに言われた葉山先生の言葉に息が詰まった。
「僕が君を助けたわけじゃなくて、たまたま僕の言ったことと、それを受け取る側の君の波長が合っただけだよ。同じことを言ってもまったく効果がない生徒だっている。それに僕だってすべての生徒が求めていたり欲している言葉が分かるわけじゃないんだ。いや、むしろ、ほとんど分からないと言ってもいい。それは年齢のせいだけじゃなくて大人同士でも同じことなんだ。相手の言っていることを完全に汲み取れるほうが珍しいんだ」
「そういうのってきっと堂々めぐりなんだ。たとえ誰かのせいで不幸になったとしても、人間は基本的に自由なんだから、その不幸から抜け出す努力をすべきなんだよ。死ぬまで誰かのせいにしていたら、なんのために生きていたんだか本当に分からなくなる」
「だけど抜け出せなかったら? たとえば自分がいなくなるとほかの人間が傷つくとか、逃げたいと思っていても状況が許してくれない場合は」
「それは優しさという言葉に置き換えることもできるけど、同時にその人の弱さでもあると思うよ。自分がいなくなって傷つく誰かがいたとしても、その人間はやっぱりまた自分の力でなんとかすることが必要なんじゃないかな。寄りかかるのに慣れてしまうと、逆に精神的な足腰がどんどん弱って、よけいにひどいことになるし」
「工藤、おまえ、今は大学ではどうだか知らないけど、あんまり甘えた考え方をしていると社会に出てから困るぞ。協調性のなさはある程度、本人の責任でもあるんだ。俺を責めるのは筋違いだろう。それよりもどうして自分がそういう目に遭ったのか、自覚を持って考えるべきじゃないのか」
(中略)
「たしかに私にも責任はあったと思います。自分から積極的に飛び込んでいってまで仲良くはしたくない、そういう雰囲気は漂っていたかも知れません。だけど、それでも三浦先生のおっしゃっていることには同意できません。私はべつに誰かに対して、失礼なり、ひどいことをしたわけじゃない。もちろん、傷つけられてもいない。私に社会性がないから悪いというのなら、ほかの女の子たちも同様に責められるべきです」
「そうやって他人のせいにばかりしているから工藤は進歩がないんだよ」
「そうかな。年齢に関係なく愛したりはすると思うけど。工藤さん、きっとそれ、子供だったから愛とは違うとかじゃなくて、子供だったから、愛してるってことに気付かなかったんだよ」