蒲公英草紙 常野物語

蒲公英草紙 常野物語 (常野物語)

蒲公英草紙 常野物語 (常野物語)

「しまう」人たち。今回のは怖くなかった。主人公峰子、村を守る槇村家のお嬢様聡子様、槇村家、常野である春田一家などなど、峰子が語る。牧村家の廣隆様が峰子を「ねこ、ねこ」と呼ぶのがかわいらしかった。

聡子のことば。

「椎名様の――西洋の絵は、今この時の聡子を描いておられます。このいっときの、今ここで光を浴びて座っている聡子を描いています。この刹那、目に見える聡子の細かいところを正確に再現していらっしゃいます。でも、こちらの、日本の方法で描かれた絵は(略)なんというのでしょう――もっと長い時間の流れを描いておられるような気がするのです。ここには、聡子という人間の昔の時間やこの先の時間が描かれているのではないでしょうか――きっと、日本の絵は、西洋の絵のように見たままのものを書くのが目的なのではないのです」

峰子の語り。

私は、世界はもっと劇的なものだと考えておりました。ひとつの激しい流れのようなものがあって、そこに投げ出されたり、飛び込んだりするというような。
けれど、実際のところはそうではないのです。いつのまにか、ひとは目に見えない流れの中にいて、自分も一緒に流れているので流れの速さを感じることができないのです。
そして、世界は一つではなく、沢山の川が異なる速さや色で流れいているのでした。見たこともない川、流れているのが分からないほどゆっくりとした大河、またはちょろちょろと茂みの陰を流れる支流や、ひっそりと暗渠を流れる伏流水、などなど。
彼等はどうやらそういう流れの一つらしいと私は気付き始めていました。彼等は、私たちとは異なる川で生きているのです。

100冊読書(30冊/50冊)